旅館で語学
可愛さの列挙
熱海のある旅館に泊まった時、仲居さんがベトナム人だった。「ココは熱くなってるかカラー」と日本語は下手だったけど、話(雑談)は上手かった。愛嬌があった。「敬語じゃない」とか「聞き取りにくい」とかの問題はどーーーーーでも良かった。そのマイナスな部分がかえって可愛いかった。
「えー、聞いてキました。コチラハ『モミジオロシ』というソウデス」
「へー。もみじおろし……」
「シッテる? モミジオロシ」
「いや、知らないです(笑)」
「そうですか。ワタシもしらないヨ(笑)。こちらハ、ねぎダヨ」
「知ってますよ(笑)」
彼女は大学で服飾の勉強をしていたそうだ。デザイナーが作った図面を再現するやつ。もし仕事が続かなかった帰るけど、日本にはずっと居たいそうだ。
「それ(服についてる赤い花)は皆付けてるんですか?」と聞き、「私だけ付けてます」と答えたときの笑顔は良かった。
モチベーションから始める
配膳の度に、何回か会話をして慣れてきた。そこで現地語であいさつがしたくなり、ネットで調べた。
(ふむふむ、「ありがとう」は「カム オン」か。これにしようか。いや、それとも「元気ですか?(コエ コン)」にしようか。「コエ コン」にしよう)
参考:カタカナで覚えるベトナム語~基本編~挨拶、自己紹介をしてみよう | ベトナムナビ
コエコンにした私は、彼女が来るのを待つ。彼女が来る。日本語で話す。料理が置かれる。日本語で話す。出ていく。戻ってくる。お茶はいるか聞いてくる。いらないと答える。出ていく。
言えない。コエコンの4文字がいえない。そんなことを何度か繰り返し、次の日になった。
寝起き、それから朝食の時も部屋へやってきたが、日本語で会話しただけだ。もう決めていた。「文章にしよう」と。
彼女は会話の中で、「ワタシ、明日のゴゴからヤスミ。ふふっ(かわいい)」と言っていた。だから、部屋を出るときに残すメモ書きに「あしたの午後は晴れるといいですね。さようなら」と書くことにした。
朝食が終わってから、再びスマホで調べる。文法など気にせずに、めちゃくちゃな文が出来上がった。
「私は6日午後晴れが欲しい。さようなら」
こんな感じだったと思う。「あさって」が分からず、日付にした。それを机の上に置いて旅館を後にした。
ここでのモチベーションは凄い。調べている間、何の苦もなかった。楽しかった。
学習が「目的」ではなく「手段」であった。その正しい道を進んでいるときに、「あぁ、こういうのだ」と思った。語学学習には、こういう状況が必要だ。